[きょうのことば] ●私の恋人はセメントになりました。
2004年9月1日 本とのつきあい ●私の恋人はセメントになりました。
松戸与三は恵那山の麓で発電所の建築現場で働いていた。
一日中顔をセメント粉にまみれながら樽からコンクリートミキサーに移す仕事に就いていた。
「なんだろう?」
仕事にヘトヘトになつた頃、樽の中から小さな箱が出てきた。
彼は腹掛けの丼(ポケット)にほうりこんだ。
「軽いところを見ると、金も入ってねえようだ」
ミキサーがからになり、終業時間になった。
「なんでセメント樽から木の箱が、、!?」
思わせぶりに頑丈に釘付けしてあった。
石にぶつけ何度も踏みつけた小箱のなかからボロに
包んだ紙切れが出て来た。
それにはこう書いてあった。
私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。
私の恋人は破砕器(クラッシャー)へ石を入れる事を仕事にしていました。
そして十月の七日の朝、大きな石といっしょに、クラッシャーの中にはまりました。
そして石と恋人のからだは砕け合って、赤い細かい石になって、ベルトの上へ
落ちました。ベルトは粉砕筒へはいってゆきました。
そこで鋼鉄の弾丸といっしょになって、細かくこまかく、
激しい音に呪いの声を叫びながら、砕かれました。
そうして焼かれて、りっぱにセメントに成りました。
骨も、肉も、魂も、粉ごなになりました。
私の恋人の一切はセメントになってしまいました。
残ったものはこの仕事着のボロばかりです。私は恋人を入れる袋を
縫っています。
私の恋人はセメントになりました。
私はその次の日、この手紙を書いてこの樽の中へそうっとしまい込みました。
あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私をかわいそうだと思って、ご返事を下さい。
この樽の中のセメントはなにに使われたでしょうか、私はそれが知りとうございます。
あの人はやさしいいい人でしたわ。そしてしっかりした男らしい人でした
わ。まだ若うございました。二十六になったばかりでした。あの人はどんなに
私をかわいがってくれたか知れませんでした。私はあの人に経帷布(きょうか
たびら)を着せる代りに、セメント袋を着せているのですわ!あの人は棺には
いらないで回転窯の中へ入ってしまいましたわ。
あなたがもし労働者だったら、私にご返事をください
ね。その代わり、私の恋人の着ていた仕事着のきれを、あなたに上げます。
この手紙を包んであるのがそうなのですよ。このきれには石の粉と、あの人の汗とがしみこんでいるのですよ。
お願いですからね。このセメントを使った月日と、それから詳しい所
書きと、どんな場所へ使ったかと、それにあなたのお名前も、ご迷惑でなかった
ら、ぜひぜひお知らせくださいね。あなたもご用心なさいませ。さようなら。
松戸与三は、湧きかえるような、子どもたちのさわぎを身のまわりに覚えた。
彼は手紙の終りにある住所と名前を見ながら、茶碗にそそいであった
酒をぐっとひと息にあおった。
「へべれけに酔っぱらいてえなあ。そうしてなにもかもぶちこわしてみてえなあ。」とどなった。
葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」から
葉山嘉樹は明治27年福岡県生まれ。
早稲田大学に入学、父の家を売って作ってくれた学費400円を浪費してしま
い、学校を退学。
生活のため船員になりカルカッタ航路の船員になったり
のち、労働者、
新聞記者、夜店の古本屋など転職し、労働組合の組織、ストライキの指導に専
心、三度も入獄の目に合い獄中、小説を書きつづけた。
「セメント樽の中の手紙」は大正15年雑誌「文芸戦線」
所載。
uncle識
松戸与三は恵那山の麓で発電所の建築現場で働いていた。
一日中顔をセメント粉にまみれながら樽からコンクリートミキサーに移す仕事に就いていた。
「なんだろう?」
仕事にヘトヘトになつた頃、樽の中から小さな箱が出てきた。
彼は腹掛けの丼(ポケット)にほうりこんだ。
「軽いところを見ると、金も入ってねえようだ」
ミキサーがからになり、終業時間になった。
「なんでセメント樽から木の箱が、、!?」
思わせぶりに頑丈に釘付けしてあった。
石にぶつけ何度も踏みつけた小箱のなかからボロに
包んだ紙切れが出て来た。
それにはこう書いてあった。
私はNセメント会社の、セメント袋を縫う女工です。
私の恋人は破砕器(クラッシャー)へ石を入れる事を仕事にしていました。
そして十月の七日の朝、大きな石といっしょに、クラッシャーの中にはまりました。
そして石と恋人のからだは砕け合って、赤い細かい石になって、ベルトの上へ
落ちました。ベルトは粉砕筒へはいってゆきました。
そこで鋼鉄の弾丸といっしょになって、細かくこまかく、
激しい音に呪いの声を叫びながら、砕かれました。
そうして焼かれて、りっぱにセメントに成りました。
骨も、肉も、魂も、粉ごなになりました。
私の恋人の一切はセメントになってしまいました。
残ったものはこの仕事着のボロばかりです。私は恋人を入れる袋を
縫っています。
私の恋人はセメントになりました。
私はその次の日、この手紙を書いてこの樽の中へそうっとしまい込みました。
あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私をかわいそうだと思って、ご返事を下さい。
この樽の中のセメントはなにに使われたでしょうか、私はそれが知りとうございます。
あの人はやさしいいい人でしたわ。そしてしっかりした男らしい人でした
わ。まだ若うございました。二十六になったばかりでした。あの人はどんなに
私をかわいがってくれたか知れませんでした。私はあの人に経帷布(きょうか
たびら)を着せる代りに、セメント袋を着せているのですわ!あの人は棺には
いらないで回転窯の中へ入ってしまいましたわ。
あなたがもし労働者だったら、私にご返事をください
ね。その代わり、私の恋人の着ていた仕事着のきれを、あなたに上げます。
この手紙を包んであるのがそうなのですよ。このきれには石の粉と、あの人の汗とがしみこんでいるのですよ。
お願いですからね。このセメントを使った月日と、それから詳しい所
書きと、どんな場所へ使ったかと、それにあなたのお名前も、ご迷惑でなかった
ら、ぜひぜひお知らせくださいね。あなたもご用心なさいませ。さようなら。
松戸与三は、湧きかえるような、子どもたちのさわぎを身のまわりに覚えた。
彼は手紙の終りにある住所と名前を見ながら、茶碗にそそいであった
酒をぐっとひと息にあおった。
「へべれけに酔っぱらいてえなあ。そうしてなにもかもぶちこわしてみてえなあ。」とどなった。
葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」から
葉山嘉樹は明治27年福岡県生まれ。
早稲田大学に入学、父の家を売って作ってくれた学費400円を浪費してしま
い、学校を退学。
生活のため船員になりカルカッタ航路の船員になったり
のち、労働者、
新聞記者、夜店の古本屋など転職し、労働組合の組織、ストライキの指導に専
心、三度も入獄の目に合い獄中、小説を書きつづけた。
「セメント樽の中の手紙」は大正15年雑誌「文芸戦線」
所載。
uncle識
コメントをみる |

ブンカ はつるところ!?
2004年5月11日 本とのつきあい
ISBN:4770021666 単行本(ソフトカバー) 朝日イブニングニュース
私の住んでいるここは、F市と市は名乗っているが私の嗜好の範囲の書店がないので超、不満度が高いのである。
大阪市内へ出ていた頃は、心斎橋筋丼池(どぶいけ)あたりの「丸善」や「駿々堂」でたち読む楽しみがあった。
なんば(難波)へ足を伸ばせば老舗の古書店があり本探しの愉悦に浸ったものだが、、、
ふらりと立ち寄り、あてどもなく活字を追う楽しみは本好きの方にはお分かりだろう、、、
F市では先ず、俳句の月刊誌はない、各種同人雑誌もほとんど置いていない、、、
置いても商いにはならんのだろうな、、、
私的には、文化果つる村とでも言いたい、、、、
コンピューター時代で始終先端に居るみたいだが、とんだアナログな落とし穴か、、(笑)
まあ、足らざるところは図書館でなんとか間に合わせている具合だ、、、
幸いと言うか近くなので俳句月刊誌やエッセイ集、とても買えない豪華ビジュアル本を借りてきては継続、継続で手元においてある書もある、、
フトした事から、古書店が身近にある事がわかった、、
古書店とは言わないか、、(笑) 郊外型ユーズド書店とでも言うか、、チエーン店組織だから
もうご存知のかたもあろうと思う、、 BOOK-OFF だー
まあーなんと漫画、コミックの一大書店だなあーーーと先ず驚かされる、、、
105円からずラリーーーと並んでるーー
参ったなあーー 入るの誤ったかな、、、
あった、あった、、おじさん用の文庫本コーナーも、あった、、
取り敢えず、きれいなのを選び
と言うのと、アと話のネタになるような文庫本を買った。
メンバーカードも作れーと言うのでそれに従った。
出費は、一枚大きい方のワンコインだけであった。
次ぎに行く時は一般書籍本も有るのか、コーナーを探検に行くつもりだ、、
私の住んでいるここは、F市と市は名乗っているが私の嗜好の範囲の書店がないので超、不満度が高いのである。
大阪市内へ出ていた頃は、心斎橋筋丼池(どぶいけ)あたりの「丸善」や「駿々堂」でたち読む楽しみがあった。
なんば(難波)へ足を伸ばせば老舗の古書店があり本探しの愉悦に浸ったものだが、、、
ふらりと立ち寄り、あてどもなく活字を追う楽しみは本好きの方にはお分かりだろう、、、
F市では先ず、俳句の月刊誌はない、各種同人雑誌もほとんど置いていない、、、
置いても商いにはならんのだろうな、、、
私的には、文化果つる村とでも言いたい、、、、
コンピューター時代で始終先端に居るみたいだが、とんだアナログな落とし穴か、、(笑)
まあ、足らざるところは図書館でなんとか間に合わせている具合だ、、、
幸いと言うか近くなので俳句月刊誌やエッセイ集、とても買えない豪華ビジュアル本を借りてきては継続、継続で手元においてある書もある、、
フトした事から、古書店が身近にある事がわかった、、
古書店とは言わないか、、(笑) 郊外型ユーズド書店とでも言うか、、チエーン店組織だから
もうご存知のかたもあろうと思う、、 BOOK-OFF だー
まあーなんと漫画、コミックの一大書店だなあーーーと先ず驚かされる、、、
105円からずラリーーーと並んでるーー
参ったなあーー 入るの誤ったかな、、、
あった、あった、、おじさん用の文庫本コーナーも、あった、、
取り敢えず、きれいなのを選び
「天声人語に見る戦後50年」下 1971.1〜1995.6
と言うのと、アと話のネタになるような文庫本を買った。
メンバーカードも作れーと言うのでそれに従った。
出費は、一枚大きい方のワンコインだけであった。
次ぎに行く時は一般書籍本も有るのか、コーナーを探検に行くつもりだ、、
あいさつ、浮世風呂〜
2004年4月27日 本とのつきあい
ISBN:4093620679 単行本 青木 美智男 小学館 2003/11 ¥1,995
あいさつの会話で、印象に残った文章を先ず最初にあげる、、
随分むかしのはなしになるが、
※ここからは、私の駄文〜
市の温泉でいつもの顔見知りに会う、、
きょうはまた、きついなあ、、 冬に逆戻りや、、、
桜も咲いた、それも散ったという今ごろに〜
だいたい、こんなあいさつが交わされる、、
日本人はその日のお天気具合がまな板に上がる、、
これは比較的気候も、生活も安定しているお国柄だからこうなるのかな、
国によっては、もうご飯は食べたー!? が挨拶言葉のところもあると言う。
天候より、先ず自分の糧がその日当たるかどうが最大重要事の大変なお国柄なのだ。
関西では、 儲かりまっか、、 イヤーさっぱりあきまへんなーー
もう、死に、死にーーてところだすわーー
商売人の定番みたいな会話だけど、、こんなのはまだ余裕の有るときの言葉で、もう不況を通り越してこんな会話もないのと違うかな、、(笑)
温泉で会って、はだかで汗を流し合うだけの仲間は差し障りのない
プロ野球の、勝った負けたの他愛のない話題で時を過ごしてるようだ、、
もう一線を退いた人達が多いが、ときの内閣、お上へのイヤミ、と言うより尻を引っ叩くという言動が多いようだな(笑)
年金生活に入っている人も多く、多寡の大小は兎も角、世の流れとは
すこしゆったりとした時間に思える浮世風呂ではある。
あいさつの会話で、印象に残った文章を先ず最初にあげる、、
随分むかしのはなしになるが、
雪の道を角まきの影がふたつ。
「どサ」「ゆサ」
出会いがしらに暗号のような短い会話だ。それで用は足り、女たちは急ぐ。
みちのくの方言は、ひとつは冬の厳しさに由来するという。
心も表情もくちびるまでこわばって、、「ああらどちらまで」が「どサ」「ちょっとお湯ヘ」が「ゆサ」。
ぺらぺら、くちばしだけをを操る漫才みたいなのは、何よりも苦手だ。
疋田桂一郎 朝日新聞 「新・人国記」青森編
※ここからは、私の駄文〜
市の温泉でいつもの顔見知りに会う、、
きょうはまた、きついなあ、、 冬に逆戻りや、、、
桜も咲いた、それも散ったという今ごろに〜
だいたい、こんなあいさつが交わされる、、
日本人はその日のお天気具合がまな板に上がる、、
これは比較的気候も、生活も安定しているお国柄だからこうなるのかな、
国によっては、もうご飯は食べたー!? が挨拶言葉のところもあると言う。
天候より、先ず自分の糧がその日当たるかどうが最大重要事の大変なお国柄なのだ。
関西では、 儲かりまっか、、 イヤーさっぱりあきまへんなーー
もう、死に、死にーーてところだすわーー
商売人の定番みたいな会話だけど、、こんなのはまだ余裕の有るときの言葉で、もう不況を通り越してこんな会話もないのと違うかな、、(笑)
温泉で会って、はだかで汗を流し合うだけの仲間は差し障りのない
プロ野球の、勝った負けたの他愛のない話題で時を過ごしてるようだ、、
もう一線を退いた人達が多いが、ときの内閣、お上へのイヤミ、と言うより尻を引っ叩くという言動が多いようだな(笑)
年金生活に入っている人も多く、多寡の大小は兎も角、世の流れとは
すこしゆったりとした時間に思える浮世風呂ではある。